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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)3143号 判決 1984年3月22日

本籍

東京都豊島区池袋一丁目五一五番地

住居

同都港区南青山七丁目一三番二一号

会社役員

本山昇

昭和一五年一二月七日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都文京区本郷二丁目三九番五号に本店を置き、健康増進用機器の通信販売等を目的とする株式会社メールオーダーハウス(昭和五三年一一月一四日設立、資本金一〇〇〇万円)の実質経営者として同会社の業務全般を統括していたものであるが、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、広告費等の経費の水増計上等の方法により所得を秘匿したうえ、昭和五四年一〇月一日から同五五年九月三〇日までの事業年度における同社の実際所得金額が三億一三五九万三四五九円(別紙1修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五五年一二月一日、同区本郷四丁目一五番一一号所在の所轄本郷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三二一七万一二四二円でこれに対する法人税額が一一九七万一三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五九年押第二〇八号の一)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億二四五四万一〇〇円と右申告税額との差額一億一二五六万八八〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の(イ)当公判廷における供述

(ロ)検察官に対する供述調書六通

一  瀬川友也(三通)、小林猛及び繪幡良一の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の調査書

(イ)  売上調査書

(ロ)  商品たな卸高調査書

(ハ)  給料調査書

(ニ)  事務費調査書

(ホ)  接待交際費調査書

(ヘ)  広告費調査書

(ト)  発送費調査書

(チ)  雑費調査書

(リ)  支払利息割引料調査書

(ヌ)  貸倒損失金調査書

一  東京法務局登記官石原明作成の登記簿謄本二通

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和五九年押第二〇八号の一)

(法令の適用)

一、罰条

判示所為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項に各該当。

刑法六条、一〇条により軽い行為時法を適用

二、刑の選択

懲役刑及び罰金刑を併科

三、換刑処分

刑法一八条

四、刑の執行猶予

刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人が昭和五三年一一月に健康増進用機器の通信販売を行うため設立したメールオーダーハウスの二期目の事業年度において、三億一〇〇〇万円余りの所得があったのに、その一割程度しか申告せず、結果として単年度で 一億一二〇〇万円余を免れたという事案であり、そのほ脱額は単年度としては相当高額であり、ほ脱率も九〇パーセントを超えているなど被告人の納税意識は薄く、犯行の動機においてもとくに斟酌すべきものはない。犯行の態様をみると、主な脱税の手段は別会社の負担とすべき経費をメールオーダーハウスの経費として支出したことにして所得を秘匿し、同時に領収証等をも改ざんして関与税理士に提出していたものである。しかも、被告人は、本件発覚後本件ほ脱額について納税義務を認める修正申告をしながら、その後の事業経営の失敗のため、重加算税を含めて約一億円の滞納があり、今後これを完納できる見込みは薄いのが現状である。以上によると被告人の犯情は軽視し難いものがある。

しかしながら、他面、本件犯行の規模、ほ脱額、犯行の態様は前記のとおりであり、同種事案に比べてとくに悪質・重大というわけではなく、被告人は本件発覚後本件犯行を素直に認め、反省改悛していること、被告人が本件によるほ脱税額を現在なお完納できないのは、被告人の経営にかかる関連会社ヘルスエージェンシーの倒産等の事情によるもので、被告人に納税の意欲がないわけではないこと、被告人は現在事業に失敗し、兄の手伝いをして得る僅かな収入で一家を支えていること、被告人に前科・前歴がないこと等被告人のため斟酌すべき事情も認められるのであり、これら諸般の情状にかんがみると、被告人に対してはしばらく懲役刑の執行を猶予するのが相当である。なお、メールオーダーハウスは本件後に実質上倒産してほとんど資産がなく、反面被告人が右会社を経営中会社の金を自己の生活費、その他に流用していることの明らかな本件においては、被告人に主文掲記の罰金刑を併科するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

検察官 三谷紘 弁護人 山本剛嗣 各出席

(求刑 懲役一年二月及び罰金五〇〇万円)

(裁判官 小泉祐康)

別紙1 修正損益計算書

株式会社メールオーダーハウス

自 昭和54年10月1日

至 昭和55年9月30日

<省略>

別紙2 脱税額計算書

<省略>

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